どんなに高く飛ぶ鳥よりも想像力の羽根は高く飛ぶ

自分の"楽しみ"を書いて、自分だけが救われるんなら、それは言葉ではないんじゃないの。言葉は人のものでもあるんだから。

掌編

老後の鼎談

その、写真に収められた彼女の笑顔が輝いているのは、彼女を撮っているあいつのことを見つめているから。あるいは、目だけではなくこころで。 人を思う気持ちは、簡単にわかってしまう。だけど、当の本人にはわかっていなかったりする。彼女が、こんな顔をす…

最期の床にて

あなたと出会ったとき、今までぼくに起こったすべて、ぼくが考えたすべて、そして行動したことのすべての訳がわかった。 なにもかものすべては君と出会う為だったのだ。 高三の夏にふとジャズのCDを買ったことも、大学生のときに本屋で働き始めたことも。 一…

どぶねずみに捧げる詩

自分のことをよく知らない人にどう思われようと気にしないのは、 あなたが強いからではなくて、 自分の弱さをさえ、知ろうとはしないから。 自分自身を知ろうとしない人のことを、 他人には知りようもないのです。 他人はあなたのことを、解釈したいように勝…

ひとがなにかを得るということ

「あなたは本を読み過ぎて 頭の中も 身体の中も “知恵”や“知識”でいっぱいね」 「でも、そこに、あなたの 頭や身体を通した“経験”はほとんどないでしょう」 「実際にやることと、できること、やれるつもりでいることは 違うのよ」 「やったらできるかもしれ…

やっぱり、あれは神様だった。

来たことのある場所 嗅いだことのある香り 眩んだことのある光 触れたことのある心持ち それを経験したはずなんてないのに なんだかそう感じてしまうこと 初めて恋に落ちたとき それが初めてではないことを、ぼくは知ってた こういう気持ちになったことが以…

持っている人と持っていない人の恋のこばなし

ぼくの彼女は携帯電話を持っていない。「スマホ」ではなくて、「携帯電話」を、だ。別にファラデーとかマクスウェルに恨みを持っている、とかなんかそんなことでもなくて、単純に携帯電話が必要ないらしい。高校生の間だけは成り行きで親に持たされていたら…

バス停

道を歩いていて、ふと、思った。 このバス停は、どこにつながっているのだろう。 きっとどこかにつながっていて、乗った人をどこかへ連れて行ってくれる。 運賃はたったの数百円で、そんなに不快なこともなく、外の変わりゆく景色をただ眺めていられる。 無…

予告編

知らない人と、映画の予告編を観ている。 わたしたちは、ここにこうしている必要もないし、 それを観ている必要もない。 だけれど、ふたり並んで観ている。 なんだか、この予告編を観なければならないような気がしている。 それも、その人と一緒でなくともよ…

えんむすび

年頃の娘が縁結びの神社巡りに熱心になっている。 縁なんて、どうせ交通事故みたいなものでしかない。出会った瞬間に出たとこ勝負で見極めて、飽きないうちにくっついてしまうのが一番いい。そこから先はいかに諦めるかなんだ、なんて口が裂けても娘には言え…

ここがほんや

「ほら、ここだよ、前に行ってみたいって言ってたでしょう?」 親戚から預かることになったこの人をいろいろと案内して周っていると、何だか変な気持ちになったりする。 「ええと、何でしたっけ? 情報がたくさんあるところ」 「そう。本屋。オールドスタイ…

“それ”に含まれうるもの

一編の詩を書くのに どのくらいの言葉が含まれているだろう 本なら何冊ぶんだろう 人生なら何生ぶんだろう 一つのお話をつくるのならどうか 何百層にも複雑に重なりあった 言葉や意味や概念や、あるいは誰にも知覚されることのないなにか そういうものが、一…

空の青さをみつめていると、

空の青をみつめて、思い浮かべること それは、 懐かしいということでもなく、 怯えるということでもなく、 ただ、気分が軽くなるというだけでもなく 青空と向き合うとき、吸い込まれていくわたしの中のなにか それが吸い込まれるたびに、わたしは絶望する 青…

ピアノ線の上に文字をおく

ピアノ線の上に文字をおく ただおくだけではない 自分の生理に合うように、順に、バランスよく並べていく ピアノ線はとても細く丈夫なので、自らを殺めることだってできよう その上に言葉をおく 線はどこかへその言葉を運ぶ 言葉の流れは、いつも線を伝って…

にんげん1回目

生まれて初めて餃子の王将に行った(めちゃくちゃうまかった)。 その時に不意に流れた曲(それはとてもぼくを感化する好きな曲だった)。 たぶんそれで、ぼくの心はあふれてしまって、不覚にも涙をこらえることができなかった。 相乗効果は考えもしない組み…

ブログのタイトル変更

ブログのタイトルを 『どんなに高く飛ぶ鳥よりも想像力の羽根は高く飛ぶ』 紹介文を 自分の"楽しみ"を書いて、自分だけが救われるんなら、それは言葉ではないんじゃないの。言葉は人のものでもあるんだから。 に変更しました。 先祖返りといった感じですかね…

風に吹かれて

音楽については、音楽をもってしか”正しく”語り得ない 本については、本をもって 言葉については、言葉をもって 愛については、愛をもって *** 人は、人を愛することも、憎むことも、安易である 安易だ、という意味は、コントロールできないということ そ…

異邦人の案内

道をなにげに歩いていると、人が困っているようだった。どこかに行きたいらしいが、そこがどこにあるのかわからないように見えた。よく見ると異邦人のようだ。ぼくの言葉は解すらしい。 どこに行きたいのか、と尋ねると、よくわからないという。ぼくが言って…

めんどうな男と、それを流す女

その男のなにが面倒なのかというと、起こり得ないことを妄想してしまうことだ。なにも仰々しいことではなくて、些細なごく普通の生活のことについて、いつも思いを巡らせてしまう。それも変に筋立って考えるのでタチが悪いようだ。前提からして起こりそうも…

わたしにとっての100円

小さいころに初めてお金を手にしたときのことを、いまだに憶えている。それは、初めて自分の財布というものを手にしてからすぐのことだった。その財布がどうやってわたしの手元にやってきたのかはっきりとは憶えていない。赤いフェルトで出来たくつ下の形を…

書くことについての、女と男のお話

「ここ、『ろ』が『る』になってる」 スマホの画面に目を落としたまま、その人は言う。ぼくはぼくの書いた文章をざっと見返してから、苦々しく応える。 「あ、本当だ……」 これが良い機会だと、彼女がまくし立てる。会うのはもう10年ぶり。近況を話し合うこと…

写真

正月に実家に帰るのなんて、何年振りだろう。特別に忙しいというわけでもなく、ただ実家に寄り付かないわたしは、きっと、親不孝者なのだろう。 久しぶりに顔を合わせた母は、いちおう元気そうだった。父も父で元気らしい。 あんたの小さい頃の写真が出てき…

エクセルシオールカフェにて

となりに座った女性と少しだけ話をした。彼女は暇そうでもなく、かといって忙しそうでもなかった。ただ本を読もうとしていたのだった。その本は見覚えのある装幀であった。私が昨晩に寝床ですくいを求めて開いた本に違いなかった。たまらずに私は声を掛けた…

贈ることば

「あなたにこの詩を贈りたいんだ。谷川さんの『雛祭りの日に』」 愛しい人に、震える手で自分の書いた自分の結晶の一部を手渡す。一報を耳にしてから、造り上げるのに一週間くらい掛かってしまった。どんな反応をするだろう。 「あら、素敵なレタリングじゃ…

みんな幸せになってしまえ

ぼくが生まれた時に、ぼくに掛けられた魔法。ぼくという人間を認めてくれた人を根こそぎ幸せにしてしまう魔法。でも、それは、ぼく自身がその人を幸せにするとは限らなくって、ぼくのいないところで他のだれかがその人を幸せにするってこともありうる。認め…

波よせて

ぼくと彼女の会話の途中で、彼女は急に黙ってしまったのだった。そのとき僕らが話していたのは、いま僕たちの目の前に広がっている空の蒼さと海の碧さについてだった。興奮してまくしたてる彼女の横顔に見惚れていた僕は気もそぞろで、そのことに気がついた…

忘れないわ

こんなことってあるだろうか。 同棲している彼女が突然よく解らないことを言い出した。どうもぼくが誰なのか解らないみたいだ。ただ家に帰りたいと言う。ここが家だよ、と言っても反応は薄い。 「あなたは誰かしら? この部屋に住んでいる人? わたし、自分…

歳とってるし、うつくしいし

「マーチャン!」 独り暮らしの祖母を一人で訪ねると、祖母は大げさによろこんでくれた。 「来たよ〜。今日はゆっくりいられるよ〜!」 「そうかいそうかい。お茶入れるからねぇ」 「ありがとう。まだこたつ出してるんだね。片付けるの手伝おうか? もう暑い…

おやすみ、せかい。

2歩下がって月を眺める きみは今どこにいるのか 問うまでもなく この世界には、きみに見せたいものが多過ぎる この街には、きみと歩きたい道が多過ぎる あすも陽は昇る 問うまでもない あした、ぼくはどこにいるだろう 問うまでもなく 向き合い続けることで…

ちこちゃん、水族館へ行く

「およいでるアジ、おいしそう!」 ちこがそんなことを水槽の前で言い出した。市内の水族館の、大水槽の前。妹のさっちんと手を繋いだまま、私に、叫ぶように。 私はこう応えた。 「捌くの、難しいよ、お母さんには、難しいなー。ちこちゃんも食べるの大変だ…

「ありがとう」と言うとき

母は娘であるあたしにありがとうと言ったことがほぼない。そう言われそうな状況で、そういった感謝の言葉を聞いたことがないと思う。ただ一度を除いては。 一時期、あたしは人間不信になってしまっていた。そうなった理由もあるのだけど、ここには詳しく書か…