どんなに高く飛ぶ鳥よりも想像力の羽根は高く飛ぶ

自分の"楽しみ"を書いて、自分だけが救われるんなら、それは言葉ではないんじゃないの。言葉は人のものでもあるんだから。

春の空の眺め

 いい気候になると、夜の宙を眺めたくなる。冬の空の方が、空気が澄んでいるらしいから、遠くまで見えて、宙の星もきれいに見えるんだけど、ぼくは、暖かくなった春の宙を見るのが好きだ。こうしている間、人の世の悩み事を考えなくて済む。寒い時には、身体が縮こまってしまうから、寒いことを考えてしまう。そういうことなしに、ただ無になる時間が欲しい夜があるのだ。
 言うまでもなく、春は日本では別れと出会いの季節で、いろんな人、いろんな思いを抱えているに違いない。そんな時に、ふっと夜空を眺めると、何億年も前の光がそこには瞬いていて、何もかもがどうでもよくなってしまう瞬間が、ぼくにはある。
 きっと、きみとの想い出もすんなりと忘れられるだろう。別れの季節だとか、そういうこととはなんの関係なくやってきた別れの詞は、速達で送られてきて。なんの弁解もすることもできずに、一方的にぼくはフラれてしまったのだった。それはなんとも情けない有り様で、誰にも相談できないぼくはわだかまりを抱えたままで。きみに好きな人ができたことは仕方ないことだ。だって、ぼくはどこまでも情けない人間で。ただお情けで、きみと付き合わせてもらっていたようなものだから。完全に主従関係はできてしまっていて、ぼくには口づけさえままならなったのだから。
 わだかまりはあるけれど、悔しいというわけでもない。だって、相手の人は、ぼくなんかよりもきっとずっと素敵な人なのだから。あなたがぼくと一緒にいたことがなんだか奇跡のように思えてくる。男は女に習い、女は男を印しする。あなたとぼくが、ともに切磋琢磨できるような関係だったらよかったのに。でも、ぼくは人間というものを、恋というものを、あなたから学んでいるだけだった。ぼくはあなたにとってイモだった。どうしようもなかった。
 今、星を見ている。春の星を見ている。きらきら瞬く星を見ている。それは、冬の星の輝きにはきっと劣っていて、それはぼくも同じだったような気がする。こんな風に見せている地球の外層を恨むわけにもいかず、ただぼくは、自分が輝くすべを探していたのだった。