どんなに高く飛ぶ鳥よりも想像力の羽根は高く飛ぶ

自分の"楽しみ"を書いて、自分だけが救われるんなら、それは言葉ではないんじゃないの。言葉は人のものでもあるんだから。

女の子に勧めてる男の子

 「このマンガ面白いよ、読んでみ」「ふーん、『G戦場ヘヴンズドア』? 聞いたことない。バトル漫画?」「いや、漫画家マンガ」「ふーん」
 「漫画家が題材だけど、漫画内マンガはほとんどないんだよ。たぶん一コマだけ。そのコマでメインキャラクターの言いたいことを代弁する、みたいな使い方だけ」
 「高校生が主人公なの? 青春モノ?」「まぁ、そうかなー。性描写があるから女の子にはあんまり勧めたことないけど、下ネタ平気っしょ?」「まぁ。え? あたしもいちおー、乙女なんすけど!」「ま、いんじゃね。作者が女性だから、そんなにどぎついってわけでもないし」「ふーん、女性なんだ? 日本橋ヨヲコさん?」
 「うん。ものを創るとか、そういうことしたいんなら、読んでみたら。ありきたりな言い方だけど、読むと、なにかしなくては、という気になる」「えー、あたしそういうのあんまりピンと来ないんだよね。冷めているっていうかさ」「まぁ読んでみれば? 全三巻だし」「うーん。創りたいことは確かだけどさ、マンガ一つでやる気になるって、よくわかんないな」「一コマひとこま気を抜けないんだよ。一つひとつの台詞にすっごく重いテーマが載っている。それが折り重なってく感じ」「創りたいの! とにかくあたしは。でもどうしたらいいのかわかんないの! 読めばいいんでしょ」「厭ならいいけど」「読むよ! 読みますよ」
 「第一話の最後の台詞を絶対に忘れるな。まぁ普通に読んでたら忘れないと思うけど。後でとても効いてくるから」「あー、ネタバレじゃん? 信じらんない、そういうの!」「ネタバレってほどでもないよ」「ふーん」
 「みんな、嘘ついてんだよ。嘘で楽しませるんだよ。フィクションの世界は全部。どうやって人を喜ばせる嘘をつくか、なんだよ」「そんな話なの?」「うん、そういう話題も入ってる。本物であるとか、自分は偽物かもしれないとか、考えたことある? それをどうやって受け入れるか、とかさ」「?」「偽物だとしても、それだけで諦めるってわけじゃないんだよ。それでも生きていくんだよ」「よくわかんない」
 「読めばわかるから! 戦友とはどんなものなのか、きみは知るだろう」「うぅ、なんか重そうだわ」「重いよ。ぼくは何回読んでも涙なしに読めないもん」「ふーん。じゃあ、お化粧落としてから読むことにするわ」「賢明ですな。あとここまで言ったことはたぶんこの漫画の主題ではない」「えー、」「でも、根底にあるのは、たぶん、トラウマの克服とか友情とか創作についての美意識とか、なんか、そんな感じ。てかいろいろありすぎてこんな安易には言えん。互いに昂め合っていく二人が何組か出てくるんだけど、こういうの君が読んだらどう思うかなー、って興味ある」「ふーん、面白そうじゃん」「人生は昂め合いだよ」「ふーん、あんたもあたしと昂め合いたいわけ?」
 「物語の対称性に気がつくと、君はハッとするだろう、とだけ言っとくわ」「むぅ。なんかうざいわー。なんか悔しいから自分で買って読むわ。ありがとう」「3冊ずつ?」「なんでよ!」「読めばわかる」(了)