どんなに高く飛ぶ鳥よりも想像力の羽根は高く飛ぶ

自分の"楽しみ"を書いて、自分だけが救われるんなら、それは言葉ではないんじゃないの。言葉は人のものでもあるんだから。

えんむすび

 年頃の娘が縁結びの神社巡りに熱心になっている。
 縁なんて、どうせ交通事故みたいなものでしかない。出会った瞬間に出たとこ勝負で見極めて、飽きないうちにくっついてしまうのが一番いい。そこから先はいかに諦めるかなんだ、なんて口が裂けても娘には言えない。
 娘が小さい頃には、お父さんとはどこで出逢ったのかをよく訊かれた。運命的な出会いであるわけもなく、ただ社内恋愛して結婚したってだけの人。とりわけ悪いところもないし、さしていい人というわけでもない。
 娘は、いい人と出会いたいらしい。いい人ってどんな人、と訊くとなんだかはっきりしない答え。とにかくいい人と出会いたいらしい。
***
 縁結びのご利益もさほどなく、近場の神社にも行き尽くした頃。娘は、近所にぼりの立っている小さな祠を見つけたらしい。のぼりには大きく朱に白字で「縁結」。こんな祠が今まであっただろうかと思うくらいに小さな、存在感のない社。石置にお賽銭を置いて、ひと拝みしていると後ろには人の気配。どうも娘の順番を待っている様子。振り向くと男の人。身体を半身に避けて、相手を通しつつ、じっと見る。相手も、自分を見ている。0.2秒くらいの間にいろんな思考が駆け巡る。一触即発の空気。
 ここで声を掛けられたなら、なにも断ることができないな、と娘は思ったそう。だって、縁を結びたい人にしか用のない小さな祠に熱心に拝んでいるところを見られて、そして、その人も縁を結びたがっている。互いの脳みその中ががダダ漏れ、筒抜け。
 その人が手を合わせている間、待っているのも変だし、娘は靴紐を結ぶふりをして様子を伺っていたんだけど。青年はノーモーションでパッと振り返って、娘との距離を詰めて一言。
「前にも、どこかでお会いしましたかね?」
 その人は遠慮がちに、でも真摯に言ったそう。
「お会いしたことはないと思いますけど、なんだかそんな気が全然しませんね」
 娘はなるべく動揺を隠したまま、応えて。
***
 その後の話は割愛。
 孫が可愛くて仕方がない今日この頃です。