どんなに高く飛ぶ鳥よりも想像力の羽根は高く飛ぶ

自分の"楽しみ"を書いて、自分だけが救われるんなら、それは言葉ではないんじゃないの。言葉は人のものでもあるんだから。

雨のにおいと傘

 雨なんて降っても、休めるわけでもないのに、こうして雨の匂いがするとなんだかうれしい。学生時代の部活で、雨が降ると練習が楽になるのを体が覚えているのかもしれない。
 どちらにしても、いい匂いでわたしは好きだ。この匂い。梅雨のこの時期の匂いって感じがする。初夏の、雨の、予感のする、匂い。だけれど雨降りは全然好きじゃなくて、むしろ鬱陶しいくらい。こんな日は、外に出るのも億劫になる。
 雨の降る匂いは、雨の予感。雨が降るなァ、っていう予感の匂い。天気に匂いがするのって、この時期の、この雨くらいなのではないか。梅雨に入ったことを、この匂いで知った気になる。雨が降ったからって、 休めるわけでもないのに。
 朝起きて、開いている窓のそとから雨の匂いがして。あぁ、雨だなぁって、一瞬気が抜けて気分が上向いたはずだったのに、やっぱりあぁ雨だなぁ、って、外に出るのをためらう。
 家を出ると、まだ雨は降っておらず、でも、この匂いがする限りは降るのだろうし、天気予報も雨の予報100%だし。わたしは傘を持って家を出る。
 彼と買った傘。
 お気に入りの雨具を持ってると、雨の日が楽しくなる、なんて彼が思い出したように言って。いつもビニール傘の彼が傘買おうよ、なんて。わたしはそんなによくもないけれど、それなりの透明のビニールではない、至って平の凡の傘を持っていたのだけど、まぁ、良いか、と思って彼について行った。別に自分は買わなくても良いのだし、彼の買い物するのについていくのは楽しかったから。
 傘の売っていそうな店を何軒か回って、彼がこういうのがいいああいうのがいいなどと言って、次々と傘をひろげていく。そうやって傘を持つ手を見るともなしに見ている。ひろげた傘で他のお客さんに気を遣う彼を、見ている。
 ひろげると内側が青空になっているものや、星空になっているもの。外側からは黒いシックな柄なのに、内はハデな模様のもの。雨の日を楽しむ工夫の詰まった傘を、彼と見ていく。ビニールではない傘って、安いのは500円くらいから、上を見たらキリがないくらいにたくさん種類がある。細くてステッキみたいなものから、もう棍棒みたいなものもある。
 そのどれも、傘である。機能はそれほど変わりない。ボタンを押したら、傘が開くんだろう。開いたなら、雨を避けることができるんだろう。それ以上の機能はきっとない。
 彼とそのとき買った傘。鮮やかなブルーの、細身の、いかにも女性向けの、傘。
 天気で気分を表すとしたら、きっと、いまの天気みたいな気分だろう。豪雨、間近。匂いが一瞬うれしくて、そして、すぐに大雨に打ちのめされることになる。
 生きている、って感じがする。
 会社に着く頃には、降り始めているかもしれない。どこに行ってもこのそら色の傘を忘れることは、ない。