女子のチョコレート讃歌
「はい、コレ」
華子がとうとつにチョコの箱を渡してきた。
「なぁに? どうしたの」
「なんでもないよ、ただあげたくなったから」
「ありがと? これ、わたし好きなの!」
最近はとても疲れていて、何かとしんどかった。こうして優しさを手渡してくれる人がいることを、いまさら知った。こうして実際に何かされて初めてわかることがある。大事に思ってもらえている人もいるのかな、と思う。
「そうでしょ? わたしにはお見通しよ」
「そしたら、これあげる! さっそくお返し」
華子の、気持ちがうれしかった。それに応えられること。それもまたうれしかった。疲れを周りの人に悟られているのだろうか。
最近は、いろんなことがあったから。つとに相談している華子にも言っていないことがたくさんある。それでも、この人は察してくれている。気遣ってくれる。あいつなんかにはできないことだ。
華子のくれたチョコを、わたしは食べる。華子はわたしの渡したお菓子を食べている。そうやって、休憩室に時間が流れる。束の間、である。ときどき、泣きたい気持ちになったりする。そういう気持ちを受け止めてくれる人を探している。自分は、弱い。強いつもりでいたのだけど、やっぱり、弱かった。優しさに心が折れそうになってしまう。強いつもりでいる自分が情けなくなる。
夏なのに、夏らしいことを、何もしていない。ただ、暑い夏を過ごしているだけだ。こうして休憩室にいると、落ち着く自分がいる。仕事はハードだ。でも、自分で選んだこと。その対価はきちんともらっている。泣き言は言わないつもりでいる。華子にいつも愚痴っている。華子もよく愚痴る。だけど、それはその場でおしまいにしている。みんながみんな、仕事熱心なわけじゃない。どうでもいいという人もいるんだろう。わたしは、自分を誇れるようなことができていない。まだ、そんな実力がない。ただ、できることをするだけだ。それでも、できることをしている。それだけだった。夏が終わろうとしていた。
「夏らしいこと、してないね」
「そうだねー、今度、休みの日、どっか行こっか」
「いいね! 買い物でもしたいよ。あー、」
チョコは、溶ける。手の中で。口の中で。溶けたチョコが体の中に入っていく。そうしてわたしのエナジーになる。今日もそうして廻っていく。くだらないことも、楽しいことも、いろんなことが、わたしを生かす。生かすけれど、そのどれもが決定的ではない。わたしは生かされている。いろんなことに、いろんな人に。そうやって生きているんだと、実感する。チョコはおいしい。