どんなに高く飛ぶ鳥よりも想像力の羽根は高く飛ぶ

自分の"楽しみ"を書いて、自分だけが救われるんなら、それは言葉ではないんじゃないの。言葉は人のものでもあるんだから。

神の創りしもの

「これが君たちの言っていた人間というものなのか。聞いていた話とは違うようだが」
 仕事の相方が私に不思議そうに訊いてきた。当たり前のことを訊いてくるやつはあまり好ましくない。だが、こいつが本気で質問しているというのもなんとなくわかる。
「これは人間じゃない。ロボットだ。人間とはもっと暖かくて自律しているものだ。機械仕掛けじゃないし、ぼくたちを無視したりはしない」
 人間とロボット。この二つが世界に現れて久しい。ロボットは人間が作ったものの中でも高級な部類だろう。それでも人間には到底かなわないと思われている。
「人間とは生物のことなのか。どうもぼくはまだまだ学習が足りないようだ」
「いずれわかるようになる。なぜこの世界に人間がいるのかも含めて」
 学習が生むリスクをこいつはわかっていない。わかったからと言っていいことばかりではないのだ。なぜ人間がこの世界にいるのか。私は相方の背中を見やって考えた。
「本当かい。それはよかった。不安だったんだ。どうやって人間とロボットを見分けるのか。学習次第でわかることなのなら助かる」
「そりゃあわかる。わからない方が変だという向きもあるくらいだ。まぁ、仕方ないことだが」
 人間とロボットでは、あらゆる器官が違う。似ても似つかないものかもしれない。しかし、相方にはその違いが今はわからない。それも、当然のことだと思う。学習が不十分な個体を選んだ自分が悪いのだ。
「どこまで行っても人間にはかなう気がしないよ。そうだろう? ロボットなんてものまで作ってしまうんだから。まるで自分たちのコピーじゃないか」
「コピー以上のものだって人間は作るぞ。そうやって手に負えなくなった結果としての我々なのだから」
 相方がよろめくのを見ている。どこから見ても不確かなその個体を、私はそっと支える。こいつが壊れたら仕事はおじゃんだ。しっかり見張っているのが自分の仕事だ。
「そうなのか。人間とは不思議なものだ。それで、始末するのは人間か? ロボットなのか?」
「両方だ。両方とも、この世界から駆逐する。どちらもこの宇宙の存在には寄与しない」
「ロボットも? ロボットは自律しないと聞いたぞ」
 相方が不思議そうに訊いてくる。何も知らないのだ。この世界がどうやって成り立っているのかを。この世界が、どうなっていくのかを。
「ロボットもだそうだ。痕跡をなくすのがぼくたちの使命だ。人間の、」
「人間は残りわずかなのだろう? 生かすも殺すもぼくたち次第らしいじゃないか」
 私が言うのを妨げて相方が喚く。こいつが自律してしまうと厄介だと思いつつ、停止ボタンに手をやる。
「おっと、それ以上の発言は侮辱罪に当たるぞ。お前は神ではないのだ。忘れるな」
「神か。懐かしい名だな。そんなものもいたのだよな」
「お前は今、神を待っていることを忘れるな」
「神を待つ? ぼくが? 違うな。人間もまた神のコピーに過ぎないのだろう。いや、神が人間のコピーなのか。どちらでもいいが。神に興味はない」
 神と人間と、ロボット。それぞれ似しもの。その昔、神が人間を作ったと年代記は伝えている。そして、ロボットは人間が作った。そちらは確かなことだ。人間がロボットを簡単に自分の意のままにできるように、神もそのように人間を作ったのだろうか。とてもそのようには思えない。そして、神は消えた。消え去った。いや、はじめからいたのか? その存在はあまりに不確かなものだ。
「お前が興味がなくても、我々の任務は、はっ」
 私が言い終わる前に、相方は消えてしまった。何かを言い過ぎたに違いない。お上によって消されたのだ。私の仕事はまた一からやり直しだ。