ピアノ線の上に文字をおく
ピアノ線の上に文字をおく
ただおくだけではない
自分の生理に合うように、順に、バランスよく並べていく
ピアノ線はとても細く丈夫なので、自らを殺めることだってできよう
その上に言葉をおく
線はどこかへその言葉を運ぶ
言葉の流れは、いつも線を伝って人に伝わっている
線の上を軽やかに踊る言葉は、人を高揚させる
しんみりとした言葉は、線にめり込んで変形しつつ、私の重石となる
音という抽象的な存在は、言葉という意味と共に人に伝播する
物理現象としての波の振動でしかないそれは、
私から始まり、どこかへと消えていく
あいまいな気持ちが、具体的な言葉として示され、自覚し、自認し、また人に伝わるかもしれない
線の連なりは、どこまでも届き得るが、しかし、届かない人には決して届かない
どんなに精緻に並べた言葉も、届かなければ、それは言葉とは言えないだろう
私が言葉を発するとき、そこにあなたが居て欲しい
その線は赤くはなく、第五指にもつながってはいない
言葉と言葉がつなぐその相互作用に勝るつながりなど、このせかいには存在しない
その線は現実のピアノ線よりも細く、宇宙エレベータのワイヤーよりも硬く、ちぎれはしない
だが、その線を断ち切ることはあまりに簡単で、そして、果無い
線を赤くする
その線を小指に巻く
そうすることもまた容易い
人の心はそう出来ているから
私たちの間に在るその線を、私たちは人間と呼んでいる