どんなに高く飛ぶ鳥よりも想像力の羽根は高く飛ぶ

自分の"楽しみ"を書いて、自分だけが救われるんなら、それは言葉ではないんじゃないの。言葉は人のものでもあるんだから。

掌編

夏と死

死んでしまった人が、上から見ているような気がしてる。あるいは草葉の陰だろうか。私たちは思い出した時にだけそう都合よく思うし、思い出さなければ、彼らはもういないのと同じなのだ。見ていると思っている自分の思いが、それが見ていると思わせている。…

マスクにまつわるお話

「マスクあるっけ? 今日、仕事なのに風邪をひいてしまった」 私は素っ気なく答える。──あるんじゃない? そこの引き出しとか。 「不織布のマスクがいいんだけど。シャレてなくていいからさ」 そういうと、彼はいろんな引き出しを開けたり締めたりし始めた。…

歩き出す

外の嵐は、今、私たちに巻き起こっているそれとは関係がないはずだった。家の外も内も荒れていた。私の内側も荒れていたし、彼の内側もそうだったろう。家の中の空気が重い。それは、私と彼が作っている空気であって、それ以外のことは何にも関係がないはず…

小さな冒険

歩いていると、やたらとこちらを見てくる少年がいた。まだ幼い。3、4歳といったところだろうか。その子は母親と一緒に歩いているのだが、母親とは手を繋がず、自分の意思で歩いている。母親の少し前を歩いている自分のところまで、時たま追い越してはこち…

つぎつぎと合う辻褄

君と初めて出会った時、自分が生まれきてきた意味が、わかった。君と出会うために生まれてきたんだ。君と暮らすために、君と生きるために、私は生まれてきたんだと思った。 やっと、だった。私は自分が生まれてきた意味がずっとわからなかった。仕事をしてい…

いろんな顔

「怒ったら、どんな顔するか、見たかったんだよ」 唐突な告発にぼくはこう答えた。ぼくはいたって冷静だった。どうにもならないなんて自分を見捨てたりしなかった。やさぐれたりもしなかった。彼女にきちんと説明するつもりだった。 「もし君が怒ったなら、…

いつかたぶん猫になる日

猫になったらどうだろう。生きていることのいろんなことを感じなくて済むだろうか。猫は猫でしんどいのだろうか。「どうなんだい?」 猫になろうと、努力したって、なれるわけじゃない。でも、猫みたいになれるかもしれない。猫として生きるのではなくて、た…

帽子をかぶる

帽子をかぶることを、唯の日除けと思っていた。日光から自分を守るためにそれをかぶるのだと。 小さい頃に、日射病になったことがある。その時だろう、はじめて帽子というものを意識するようになったのは。夏の、暑い日差しにさらされ続けると、人は体調を崩…

髪を切る

「変わりましょうよ!」 わたしは、いま説得されている。自分から言い出したことだった。それでも躊躇しているていでもあって、自分が望んでいるようでもある。どちらが真意なのか、自分でもわからない。どちらでもいい気もする。 長くのばした髪を切ろうか…

今日もどこかで雲が雨を降らせている

今日もどこかで雲が雨を降らせている。 雨なんて降る予報ではなかったのに、いつの間にかその予報も変わって、実際に雨が降っている。そうやって、天気に翻弄される人間がこの世界に一定数いて、そうやってまた、あぁと思っているのだろう。そのあぁ、には、…

ぼくにあいた穴

君からの帰り道に、ふと、星をみつけた。 星なんてどこにでもあるなんて、ときどき思う。人だって、どこにだっていると思っていた。でも、そんなことはないって、やっぱり思う。自分が万全の態勢を整えていたって、昼間に見ようと思ったら、星はまぁ、見えな…

世界をこしらえるということ

どんな世界も、自分にぴったりとしない。どこまでも自分に都合の良い世界なんてない。どこにもない。かと言って、うまく生きることができないというわけでもないんだろう。多くの人にとってはね。自分には、難しい。 難しいと思い込んでいるだけで、そうでも…

女子のチョコレート讃歌

「はい、コレ」 華子がとうとつにチョコの箱を渡してきた。 「なぁに? どうしたの」 「なんでもないよ、ただあげたくなったから」 「ありがと? これ、わたし好きなの!」 最近はとても疲れていて、何かとしんどかった。こうして優しさを手渡してくれる人が…

再会と落涙

「ただ、会ったというだけで、涙を流してくれる人がこの世界にいると分かっただけでも、ボクはうれしいよ。生きていてよかったよ」 そのまま彼女はこちらを見ることもせずに泣いたままだった。ぼくは続けた。 「だから、泣くのをやめて? 笑顔を見せて。久し…

雨のにおいと傘

雨なんて降っても、休めるわけでもないのに、こうして雨の匂いがするとなんだかうれしい。学生時代の部活で、雨が降ると練習が楽になるのを体が覚えているのかもしれない。 どちらにしても、いい匂いでわたしは好きだ。この匂い。梅雨のこの時期の匂いって感…

どこにでもいる僕たちなのに

「なんでこんなことすんの!」 「別にー、理由なんてないよ」 「はァ?」 こんなに怒られては、とても怒った顔を見てみたかったから、なんて言えない。居心地が悪いまま、ぼくは笑顔をうすら浮かべている。どこにでもいる僕たち。 「もう、次やったら怒るか…

生きる その百八番目のし

いつも消化できない、書ききれないなにかを抱えている たまに書いても、どうにもまとまらず、人の目に触れることも、その必要もないものが出来上がる この世界の、人の目に触れているもの、そうなるべきもの 自分自身にさえ、わたしはそれを躊躇してしまう …

したの味

マスクごしの接吻。 彼女が舌を当てているのがわかる。わたしもそうしている。張り合うマスク。ゴムで耳が痛くなるくらい、キスしている。 息が荒くなっているのは、気密のせいなのか。ぼくらは、いま、野生。どうしても、こうしなくてはならない。 眼鏡が曇…

愛されているの、に

愛されていることを知っている そういう人がときどきわたしの前に現れては通り過ぎていく ときどき留まる人もある わたしを産んだ人は、寄り添ってくれる わたしは時にそれを拒み、時に受け入れてきた 愛されていることを知っている なぜ、その人がわたしを…

彼女は、胸を張って、

うまれてはじめて、人を好きになった わたしは、その人と会えなくなったことをうらめしく思った さまざまな困難に及んで、わたしは死んでいいと思った でも、それはわたしの気やすめの気まぐれでしかなかった 生をおろそかにすることを、彼女はとても悲しむ…

あえないはなし

【ぼーいの】 美味しいものを食べようとするたびに、あなたとこれを食べられたらいいのに、と思う。 良い音楽を聴くたびに、あなたはこれを聴いてどう思うのか、問いたい気持ちを抑えられない。 お気に入りの映画が増えるたびに、君とこの気持ちを同じ時間・…

贈ることのない恋文

何を書いたらあなたを楽しませることができるだろうかと考えて、あなたの楽しみのツボみたいなこと、あんまりよく知らないことに気が付きました。人格としてのあなたを好きだけれど、あなたの嗜好だとか、何を楽しいと思うのだろうとか、そういうことにはず…

プレイリスト:ReWrite

「じゃあ、次はこの曲、きいて」 「ん」 彼はあくまで素っ気なくわたしからイヤフォンを受け取る。自分の好きな曲を彼に聴いてほしくって、こうして肩をならべてコーヒーショップに座っている。彼に聴いてほしい曲は耳を通さなくてもどんな音なのかはもちろ…

あなたがぼくの現実であるということ

あなたに、ぼくの現実と成って欲しい。あなたを幸せにしようと、ぼくは思っていたい。思い続けていたい。あなたでなくてはならない。あなた以外に、現実なんてない。ただ、ただ、あなたとあなたから産まれてくる小さな人たちを、幸せにしていたい。小さな人…

プレイリスト

「じゃあ、次はこの曲、きいて」 「ん」 彼はあくまで素っ気なく女の子からイヤフォンを受け取る。女の子は自分の好きな曲を彼にきいてほしくって、こうして肩をならべて喫茶店に座っている。彼にきいてほしい曲は耳を通さなくてもどんな音なのかはもちろん…

目のさよなら

どの瞬間が、その子と目の合った最後だったのか、思い出すことのかなわない別離。 どんなに素敵だと思っていても、それを口にしなくては、伝わらない。今は目の前にいたとしても、いつかはいなくなってしまう。 その子が目の前からいなくなったら、思うだろ…

自分を幸せにしようとすること

ひとはふつう、自分を幸せにしようとするものなのか なんとなく なんとなく はしっていたけど やっぱりそうなのか だから、幸せにしてもらっているひとを見ると複雑な気持ちになっていたのか そんなこと、当たり前のことなのかもしれない でも、なんだか、そ…

老後の鼎談

その、写真に収められた彼女の笑顔が輝いているのは、彼女を撮っているあいつのことを見つめているから。あるいは、目だけではなくこころで。 人を思う気持ちは、簡単にわかってしまう。だけど、当の本人にはわかっていなかったりする。彼女が、こんな顔をす…

最期の床にて

あなたと出会ったとき、今までぼくに起こったすべて、ぼくが考えたすべて、そして行動したことのすべての訳がわかった。 なにもかものすべては君と出会う為だったのだ。 高三の夏にふとジャズのCDを買ったことも、大学生のときに本屋で働き始めたことも。 一…

どぶねずみに捧げる詩

自分のことをよく知らない人にどう思われようと気にしないのは、 あなたが強いからではなくて、 自分の弱さをさえ、知ろうとはしないから。 自分自身を知ろうとしない人のことを、 他人には知りようもないのです。 他人はあなたのことを、解釈したいように勝…