どんなに高く飛ぶ鳥よりも想像力の羽根は高く飛ぶ

自分の"楽しみ"を書いて、自分だけが救われるんなら、それは言葉ではないんじゃないの。言葉は人のものでもあるんだから。

彼女は、胸を張って、

 うまれてはじめて、人を好きになった
 わたしは、その人と会えなくなったことをうらめしく思った
 さまざまな困難に及んで、わたしは死んでいいと思った
 でも、それはわたしの気やすめの気まぐれでしかなかった
 生をおろそかにすることを、彼女はとても悲しむだろうと、簡単に想像がついたのだった
 彼女でなくてはならないとは思わないけれど、誰かを選ぶのなら、彼女しかいない
 いま、彼女に選ばれる人間であるだろうかと思う
 過去に何があったとか、彼女といたときをどう過ごしただとか、そんなことでもなくて、
 わたしは彼女に顔向けのできる生活を、人生を、送っているだろうかと

 わたしは、あの夏に、恋に落ちた
 はじめての恋だった
 彼女は、初めてわたしを受け入れてくれる気がした人だった
 彼女の職能からそうしたのかもしれないし、それさえも考え過ぎなのかもしれない
 彼女の特別をわたしは感じたし、でも、わたしは彼女に何かを感じさせただろうか、と思う
 彼女に、あるいはこの世界の誰かに、見合う人間であるだろうか
 ひたすら自問し続ける日々が、始まる

 恋に落ちたとき、恋が落ちたと思わなかった
 ただただ、焦がれていただけだった
 今、わたしは、彼女に選ばれる人間だろうか
 彼女は、胸を張って、わたしを選ぶだろうか
 わたしは、そういう人間になれているだろうか
 芯を食って、自分を昂めているだろうか
 無能であろうとしている場合ではない
 なんとかしようと焦燥している場合でもない
 誰かに見合う誰かなんて、いない
 ただ、自分に納得がいくのか、というだけなのだ
 ただ、自分がそうあることを、自分に許すだけだ

 あの夏の、あの部屋の、
 あの日々
 わたしは、生きた
 彼女は生きさせようとした
 その続きを、わたしは生きている
 彼女は、そうしているだろうか